景気は今どこか: 雇用統計・景気動向指数・マネーストック
この巻・記事の目次
事務所の掲示板に「パート募集」の張り紙を出して、1 週間がたった。応募の電話は 1 本もない。
真一社長
うちの時給が安いのか? それとも、そもそも人がいないのか?
ユイ総務経理
ハローワークの資料を調べました。潮見市の有効求人倍率は 1.6 倍だそうです。

桐生中小企業診断士
「1.6 倍」が何の比で、景気のどこを映しているのか。順に見ていきましょう。
問い
求人を出しても人が来ないとき、その数字は景気の何を表しているのか。雇用、景気全体、お金の量は、それぞれどの統計で見ればよいのか。
解説
完全失業率は「仕事を探している人」の割合
労働力調査 は、総務省統計局が毎月実施する、日本の就業と失業の状態を調べる標本調査です。ここから 完全失業率 が出ます。
まず、15 歳以上の人口を 3 つに分けます。
- 就業者: 調査週間中に収入を伴う仕事を 1 時間以上した人(休業中の人を含む)
- 完全失業者: 次の 3 つの条件をすべて満たす人。(1) 仕事がなくて少しも仕事をしなかった、(2) 仕事があればすぐ就ける、(3) 仕事を探す活動をしていた
- 非労働力人口: 就業者でも完全失業者でもない人(家事、通学、高齢者など)
就業者と完全失業者を合わせたものが 労働力人口 で、完全失業率は労働力人口に占める完全失業者の割合です。
完全失業率 = 完全失業者 ÷ 労働力人口 × 100
分母は 15 歳以上人口ではなく、労働力人口である点に注意してください。
図で整理すると、次のようになります。

アンバーの「完全失業者」だけが、率の分子です。仕事がなくても、探していない人は非労働力人口に入ります。そのため、仕事探しをあきらめる人が増えると、失業率は見かけ上下がることがあります。
ミナト金属のある潮見市で、数字を仮に置いて確かめます。15 歳以上人口 14,000 人のうち、就業者が 9,600 人、完全失業者が 400 人だったとします。
- 労働力人口 = 9,600 + 400 = 10,000 人
- 完全失業率 = 400 ÷ 10,000 × 100 = 4.0%
- 非労働力人口 = 14,000 − 10,000 = 4,000 人
ユイ総務経理
400 ÷ 14,000 ではなくて、10,000 で割るんですね。
失業はその原因で、次の 3 つに分けて考えるのが一般的です。
- 摩擦的失業: 転職や就職の合間に生じる一時的な失業
- 構造的失業: 求人と求職者の職種・地域・技能が合わないために生じる失業(ミスマッチ)
- 需要不足失業: 景気後退で求人そのものが減って生じる失業
景気が良くなると、このうち需要不足失業が減ります。逆に、景気が良くても構造的失業と摩擦的失業は残ります。
図で整理すると、次のようになります。

摩擦的失業と構造的失業だけが残っている状態の失業率を 自然失業率 と呼びます。景気対策で減らせるのは右端の需要不足失業で、構造的失業を減らすには職業訓練や地域間の移動支援のような別の政策が必要です。
有効求人倍率は求人と求職の比
有効求人倍率 は、厚生労働省が作成する「一般職業紹介状況」の指標で、全国のハローワークに出ている求人が、求職者 1 人あたり何件あるかを表します。
有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数
有効求人数 は、前月から繰り越された未充足の求人と、当月の新規求人の合計です。有効求職者数 も同じ考え方で、繰り越しと当月の新規申込の合計です。当月の新規求人数を新規求職申込件数で割ったものは 新規求人倍率 と呼びます。
数字を仮に置きます。潮見市で有効求人数が 4,800 件、有効求職者数が 3,000 人なら、4,800 ÷ 3,000 = 1.6 倍 です。1.0 倍を超えると、求職者の数より求人の数が多い、つまり人手を探す側に厳しい状態です。
真一社長
1.6 倍ということは、1 人に 1.6 社が声をかけている状態か。そりゃ来ないな。
この統計は、ハローワークに出た求人・求職だけを数える業務統計です。民間の求人サイトは入りません。また、完全失業率とは別の統計です。完全失業率は家計を調べる標本調査、有効求人倍率は役所の窓口の業務実績が元になっています。
図で整理すると、次のようになります。

紺とアンバーの 2 本は、上下が逆に動きます。景気が良いと求人が増えて倍率が上がり、仕事を探す人は減って失業率が下がります。点線の 1.0 倍は、求人と求職が数の上で釣り合う水準です。
景気動向指数は景気の「体温計」
雇用の指標は 1 つひとつが景気の一面しか映しません。そこで、複数の経済指標を合成して景気の局面を捉えるのが 景気動向指数 で、内閣府が作成します。
採用する系列は、景気に対する動きのタイミングで 3 つに分かれます。
- 先行指数: 景気に先立って動く系列(現行 11 系列)
- 一致指数: 景気とほぼ同時に動く系列(現行 10 系列)
- 遅行指数: 景気に遅れて動く系列(現行 9 系列)
雇用の系列は、3 つのグループすべてに入っています。新規求人数(除学卒)は先行、有効求人倍率(除学卒)は一致、完全失業率は遅行です。企業は、景気が悪くなる前に求人を減らし、景気が戻っても失業者がすぐには減らないからです。
図で整理すると、次のようになります。

アンバーの行が、試験で最も問われやすい部分です。採用系列は、第 13 次改定(2021 年 3 月)のように入れ替えが行われてきました。今後も改定されうるため、表は代表例として読んでください。先行指数にはほかに、マネーストック(M2)の前年同月比も採用されています。
景気動向指数には、CI(コンポジット・インデックス) と DI(ディフュージョン・インデックス) の 2 つの見方があります。CI は各系列の変化率を合成し、景気変動の大きさや勢い(量感)を表します。DI は、採用系列のうち改善(上昇)している系列の割合で、景気の波及の広がりを表します。2008 年 4 月から CI が公表の中心になり、DI は参考として公表されています。
図で整理すると、次のようになります。

3 行目のアンバーの行が、問われる違いです。景気拡張の目安は、CI では一致指数が上昇していること、DI では一致指数の DI が 50% を超えていることです。CI は月ごとの振れが大きいので、3 か月や 7 か月の後方移動平均で見るのが基本です。なお、景気の山と谷の判定には、月々の DI とは別の「ヒストリカル DI」が使われます。
ユイ総務経理
先行・一致・遅行って、ぜんぶ覚えないといけませんか?
桐生中小企業診断士
全部は要りません。雇用の 3 つと、株価が先行、生産が一致、という筋だけ押さえましょう。
マネーストックは「世の中に出回るお金」の量
マネーストック は、金融機関以外の経済主体(企業・個人・地方公共団体など)が保有する通貨の残高で、日本銀行が作成します。以前は「マネーサプライ統計」と呼ばれていました。範囲の広さによって、次の 4 つの指標があります。
- M1: 現金通貨 + 預金通貨(普通預金など、すぐに支払いに使える預金)
- M3: M1 + 準通貨(主に定期預金)+ CD(譲渡性預金)
- 広義流動性: M3 + 金銭の信託、投資信託、金融債、銀行発行普通社債、国債、外債など
- M2: M3 と同じ種類の通貨だが、発行者が国内銀行等に限られる
M1 と M3 は、ゆうちょ銀行や農協・信用組合を含む すべての預金取扱機関 の預金が対象です。M2 は、ゆうちょ銀行などを含まない、国内銀行等の預金に限られます。M2 と M3 の違いは通貨の種類ではなく、どの金融機関の預金を数えるか です。日本銀行は 4 つの指標をすべて点検する方針で、「経済・物価情勢の展望」では M2 の動きを述べています。
図で整理すると、次のようになります。

入れ子は、内側から外側へ範囲が広がります。M2 だけは入れ子ではなく、発行者の範囲で M3 と区別されます。
その他の経済指標と最近の経済動向
「経済事情(最近の経済動向)」は、新聞やニュースで報じられる景気の見方を問う論点です。代表的な指標を、名前と作成機関だけ押さえておきます(頻出度 C)。
- 月例経済報告: 内閣府が毎月示す、政府の景気判断。景気の基調判断を文章で示す
- 日銀短観(全国企業短期経済観測調査): 日本銀行が四半期ごとに行う企業アンケート。業況判断 DI は、業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値
- 鉱工業指数: 経済産業省が作成する、鉱工業の生産・出荷・在庫の指数
- 機械受注統計: 内閣府が作成する、民間設備投資の先行きを示す統計
最新の失業率や景気判断の数値は、毎月更新されるため、この記事では書きません。試験前に、内閣府の月例経済報告や統計局のサイトで、直近の動きを一度確認しておくと安心です。
試験ではこう出る
頻出度は B(編集上の目安)。「雇用統計」「景気動向指数」「マネーストック統計」はいずれも公式シラバスに記載があり、「経済事情」と「その他の経済指標」は頻出度 C の目安です。経済学は為替・国際収支などの経済指標も出る科目で、過去に弾力化(+4 点)が 2 回あります。
出題の型は 3 つです。
- 計算問題: 就業者・非労働力人口などから完全失業率を求める。有効求人数と有効求職者数から倍率を求める
- 分類・語句問題: 系列が先行・一致・遅行のどれか、指標の作成機関はどこか
- 正誤問題: CI と DI の位置づけ、M1・M2・M3 の範囲、ゆうちょ銀行の扱い
ひっかけの典型は 4 つです。
- 完全失業率の分母を、15 歳以上人口にしてしまう
- 完全失業率を先行、新規求人数を遅行と取り違える
- DI を公表の中心だと思い込む(中心は CI)
- M2 と M3 の違いを、通貨の種類の違いだと取り違える(違いは対象金融機関)
確認クイズ
確認クイズ
解説 労働力人口 = 12,000 − 4,300 = 7,700 人、完全失業者 = 7,700 − 7,200 = 500 人です。完全失業率 = 500 ÷ 7,700 × 100 ≒ 6.5% です。4.2% は 15 歳以上人口で割った誤り、6.9% は就業者で割った誤りです。
確認クイズ
解説 有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数 = 2,400 ÷ 3,000 = 0.8 倍です。1.25 倍は分子と分母を逆にした値です。この地域は求人より求職者の方が多く、倍率は 1 倍未満になります。
確認クイズ
解説 完全失業率は遅行指数です。新規求人数(除学卒)と東証株価指数は先行指数、有効求人倍率(除学卒)は一致指数です。
確認クイズ
解説 景気動向指数は内閣府が作成し、2008 年 4 月から CI が公表の中心です。CI は変化の大きさ(量感)、DI は改善している系列の割合を表します。
確認クイズ
解説 M2 は現金通貨・預金通貨・準通貨・CD を対象とし、発行者は国内銀行等に限られ、ゆうちょ銀行などを含みません。M1 は現金通貨と預金通貨のみ、広義流動性は M3 に国債・外債などを加えた最も広い指標です。
この記事のまとめ
- 求人倍率は「求人 ÷ 求職」の比で、景気の逼迫度を映す。人手不足は景気の一面で、潮見市の 1.6 倍は求職者より求人が多い状態
- 完全失業率 = 完全失業者 ÷ 労働力人口(労働力調査、総務省)。有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数(一般職業紹介状況、厚生労働省)
- 景気動向指数は内閣府。先行・一致・遅行に分かれ、雇用は新規求人数(先行)・有効求人倍率(一致)・完全失業率(遅行)。公表の中心は CI で、DI は参考
- マネーストックは日本銀行。M1 ⊂ M3 ⊂ 広義流動性で、M2 は M3 と同じ構成だが国内銀行等のみ(ゆうちょ銀行などを含まない)
- 系列や最新値は更新される。数字は代表例として覚え、直前に出典で確認する
翌週、商社から届いたチタン材の請求書を見て、真一が声を上げた。ドル建ての単価は据え置きなのに、円の請求額が 18% 増えている。
この節で学んだシラバス項目
- マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方雇用統計(失業率・有効求人倍率)
- マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方景気動向指数(先行・一致・遅行)
- マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方マネーストック統計
- マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方経済事情(最近の経済動向)
- マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方その他の経済指標