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ニュースの「GDP」は何を数えているか: 国民経済計算と三面等価

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この巻・記事の目次

経済学・経済政策 の巻

  1. 第01章 ニュースの「GDP」は何を数えているか: 国民経済計算と三面等価
  2. 第01章 売上は増えたのに儲かっていない: 名目と実質・物価指数
  3. 第01章 景気は今どこか: 雇用統計・景気動向指数・マネーストック

記事内目次

  1. 問い
  2. 解説
  3. 国民経済計算は「国の決算書」
  4. GDP は付加価値の合計
  5. 数える物、数えない物
  6. 三面等価の原則
  7. GDP から GNI、国民所得へ
  8. 試験ではこう出る
  9. 確認クイズ
  10. この記事のまとめ

月曜の朝、潮見市の本社事務所。点けっぱなしのテレビから、キャスターの声が流れた。「今期の GDP は、年率換算で 2% のマイナスとなりました」。

社長の港真一は、コーヒーを手にしたまま足を止めた。

真一社長

ユイさん、GDP が2%減ったって。うちの売上 6.2 億円も、2%減るのか?

ユイ総務経理

えっと……そもそも GDP が何を数えているのか、私もよくわからなくて。

ニュースの数字が自社にどう響くのか。ミナト金属の事務所で、真一とユイが決算書を前に首をひねる拡大する
ニュースの数字が自社にどう響くのか。ミナト金属の事務所で、真一とユイが決算書を前に首をひねる
ニュースの数字が自社にどう響くのか。ミナト金属の事務所で、真一とユイが決算書を前に首をひねる

ニュースの数字が自社にどう響くのか。ミナト金属の事務所で、真一とユイが決算書を前に首をひねる

チタン材の値上がり、A 社の値下げ要求と、数字に振り回され続けた半年だった。ニュースの数字が自社にどう響くのかを、真一は知りたがっている。午後に来社した桐生は、事情を聞くとホワイトボードのペンを取った。

桐生中小企業診断士

ちょうどいい。今日は国の側ではなく、ミナト金属の決算書から GDP を数えてみましょう。

問い

ニュースの GDP は、何を、どこまで数えているのか。ミナト金属の売上 6.2 億円は、その中にどんな形で入っているのか。

解説

国民経済計算は「国の決算書」

国民経済計算(SNA) は、一国の経済活動を、国際基準に沿って体系的に記録した統計です。日本では内閣府が作成しています。記録の仕方は、会社の決算書によく似ています。

  • フロー: 一定期間の流れ。GDP や国民所得が代表です。会社の損益計算書にあたります
  • ストック: ある時点の残高。国富(国民貸借対照表)が代表です。貸借対照表にあたります

図で整理すると、次のようになります。

フローは損益計算書、ストックは貸借対照表。会社の決算書と同じ形で国の経済を記録する拡大する
フローは損益計算書、ストックは貸借対照表。会社の決算書と同じ形で国の経済を記録する
フローは損益計算書、ストックは貸借対照表。会社の決算書と同じ形で国の経済を記録する

フローは損益計算書、ストックは貸借対照表。会社の決算書と同じ形で国の経済を記録する

蛇口から流れる水の量(フロー)と、タンクに溜まった水の量(ストック)の違いです。GDP は「1 年間にどれだけ流れたか」を測る指標なので、フローに分類されます。

ユイ総務経理

つまり、国の損益計算書の「いちばん上の行」が GDP ですか?

桐生中小企業診断士

近いです。ただし、売上高ではなく付加価値を数える点が違います。

GDP は付加価値の合計

GDP(国内総生産) は、一定期間に国内で新たに生み出された付加価値の合計です。付加価値 は、生産額から、他社から買ってきた原材料などの 中間投入 を引いたものです。

付加価値 = 生産額(売上高)− 中間投入

ミナト金属は、売上高 620 百万円に対し、材料・外注・電力などの外部購入が 308 百万円でした。付加価値は 620 − 308 = 312 百万円 です。GDP に入るのは売上の 620 百万円ではなく、この 312 百万円です。

売上を足してはいけない理由は、取引の連鎖を見るとわかります。素材メーカーがミナト金属に部材を売り、ミナト金属が部品を A 社に売り、A 社が機械を最終需要者に売る場合を考えます(数字は簡略化し、素材メーカーの仕入は 0 とします)。

段階売上中間投入付加価値
素材メーカー3080308
ミナト金属620308312
A 社1,000620380
合計1,9289281,000

図で整理すると、次のようになります。

グレーの中間投入は前の段階の売上の再計上。アンバーの付加価値だけを積み上げると GDP になる拡大する
グレーの中間投入は前の段階の売上の再計上。アンバーの付加価値だけを積み上げると GDP になる
グレーの中間投入は前の段階の売上の再計上。アンバーの付加価値だけを積み上げると GDP になる

グレーの中間投入は前の段階の売上の再計上。アンバーの付加価値だけを積み上げると GDP になる

売上を全部足すと 1,928 百万円ですが、同じ価値を何度も数えています。付加価値を足せば 1,000 百万円で、A 社が最終需要者に売った機械の金額と一致します。「国内」は場所を指し、国籍は問いません。日本国内の外資系工場の生産も GDP に含まれます。

数える物、数えない物

市場で取引されない活動でも、実態があれば推計して GDP に含めます。これが 帰属計算 です。

  • 持ち家に住む人の帰属家賃(自分に貸したとみなす)
  • 農家が自分で食べる農産物(自家消費)
  • 政府サービス(かかった費用で評価する)

一方、次のものは GDP に含まれません。

  • 土地や株式の値上がり益(新しい生産ではない)
  • 中古品の売買代金そのもの(仲介手数料は含む)
  • 家庭内の家事労働(市場取引がなく、帰属計算の対象外)

図で整理すると、次のようになります。

数えるか数えないかの判断基準は「その期間に新しい付加価値が生まれたか」拡大する
数えるか数えないかの判断基準は「その期間に新しい付加価値が生まれたか」
数えるか数えないかの判断基準は「その期間に新しい付加価値が生まれたか」

数えるか数えないかの判断基準は「その期間に新しい付加価値が生まれたか」

左の3つは、お金のやり取りがなくても生産の実態があるので推計して数えます。右の3つは、所有者が替わっただけ、値段が変わっただけ、あるいは市場で取引されていないため数えません。中古品は代金そのものは数えませんが、仲介業者が生んだ手数料は新しいサービスなので数える、という区別がひっかけの定番です。

三面等価の原則

さきほどの 312 百万円は、別の角度からも数えられます。ミナト金属で作られた価値は、賃金や利益として誰かの所得になります。その製品は、最終的には誰かが買います。

生産面は、各段階の付加価値の合計です。ミナト金属なら 312 百万円でした。

分配面は、付加価値が誰の所得になったかを見ます。構成要素は次の 4 つです。

分配先ミナト金属(百万円)意味
雇用者報酬250賃金と、社会保険料の事業主負担
営業余剰・混合所得12企業の利益(営業利益)。利息や配当もここから払われる
固定資本減耗45設備の使用による価値の目減り(会計の減価償却に近い)
間接税 − 補助金5固定資産税など、生産に課される税から補助金を引いたもの

合計は 250 + 12 + 45 + 5 = 312 百万円 で、生産面と一致します。この 4 つが分配面の構成要素です。現在の統計では、間接税は「生産・輸入品に課される税」と呼ばれます。

支出面は、生み出されたものを誰が買ったかを見ます。

GDP = 消費 + 投資 + 政府支出 +(輸出 − 輸入)

Y=C+I+G+(X−M)Y = C + I + G + (X - M)

記号は、Y: GDP、C: 民間消費、I: 民間投資(住宅、設備、在庫の増減)、G: 政府支出、X: 輸出、M: 輸入です。

ミナト金属の部品は、A 社に買われる中間財なので、支出面にそのまま現れません。支出面に現れるのは、A 社の機械が最終需要者に売られた時点です。国内の工場が設備として買えば I、海外に売れば X に入ります。

輸入 M を引くのは、C や I の支出に、国内で生産されていない分が含まれるからです。SHIOMI 鍋 1 個(9,800 円)を客が買うと、C は 9,800 円増えます。仮に材料 1,800 円がすべて輸入だとすると、M の 1,800 円を引いて、国内の付加価値 8,000 円と一致します。

真一社長

売れ残った製品は、誰も買ってないだろう。それでも等しくなるのか?

桐生中小企業診断士

売れ残りは、会社が自分で買ったとみなして在庫投資に入れます。だから等しくなります。

三面等価は、このように在庫の増減まで含めて事後的に成り立つ関係です。「計画どおりに需要が出る」という意味ではありません。

同じ GDP を、生産・分配・支出の 3 方向から見る。下段は第 4 巻の章の並び拡大する
同じ GDP を、生産・分配・支出の 3 方向から見る。下段は第 4 巻の章の並び
同じ GDP を、生産・分配・支出の 3 方向から見る。下段は第 4 巻の章の並び

同じ GDP を、生産・分配・支出の 3 方向から見る。下段は第 4 巻の章の並び

図で整理すると、中央の GDP を 3 つの面が囲む形です。左から、ミナト金属の付加価値 312 百万円が、生産・分配・支出のどこで数えられるかを読みます。下段の帯は、この巻の歩き方です。まず経済指標を読み、次にマクロ理論、国際経済へ進み、後半でミクロ理論を学びます。

GDP から GNI、国民所得へ

ここまでの GDP は「国内」の生産でした。国民の所得として見るには、2 段階で組み替えます。

GNI(国民総所得) は、国民(居住者)が受け取った所得の合計です。旧 GNP(国民総生産)にあたります。GDP に 海外からの純所得(海外から受け取った所得 − 海外へ支払った所得)を加えて求めます。

GNI = GDP + 海外からの純所得

GNI=GDP+FGNI = GDP + F

F は海外からの純所得です。日本企業が海外子会社から受け取る配当は加え、日本国内の外資系工場が本国へ送る利益は引きます。ミナト金属には海外との所得のやり取りがないので、F = 0 です。

次に、GNI から固定資本減耗を引きます。設備の目減り分は、誰の所得にもならないからです。さらに、間接税から補助金を引いた分も除きます。市場価格には税が上乗せされており、税は労働や資本を提供した人の所得ではないためです。補助金は逆に所得に足し戻すので、引くのは「間接税 − 補助金」です。残ったものが 国民所得(NI) です。

国民所得 = GNI − 固定資本減耗 −(間接税 − 補助金)

NI=GNI−D−(T−S)NI = GNI - D - (T - S)

D: 固定資本減耗、T: 間接税、S: 補助金です。ミナト金属の数字で通すと、次のとおりです。

  • GDP にあたる付加価値: 312 百万円
  • GNI: 312 + 0 = 312 百万円
  • 固定資本減耗 45 百万円を引く: 312 − 45 = 267 百万円
  • 間接税−補助金 5 百万円を引く: 267 − 5 = 262 百万円

262 は、雇用者報酬 250 と営業余剰 12 の合計に一致します。国民所得統計 では、NI を雇用者報酬・財産所得・企業所得に分けて示します。ミナト金属で言えば、従業員に 250、会社に 12 が残ったということです。

GDP から GNI、国民所得への組み替え。加えるのは海外からの純所得、引くのは固定資本減耗と間接税−補助金拡大する
GDP から GNI、国民所得への組み替え。加えるのは海外からの純所得、引くのは固定資本減耗と間接税−補助金
GDP から GNI、国民所得への組み替え。加えるのは海外からの純所得、引くのは固定資本減耗と間接税−補助金

GDP から GNI、国民所得への組み替え。加えるのは海外からの純所得、引くのは固定資本減耗と間接税−補助金

図で整理すると、左から右へ、足す・引くの順に値が変わります。GDP から先へ進むほど、「国内で生産された額」から「国民が受け取った所得」に近づきます。加算は 1 回、控除は 2 回と覚えると、順番を取り違えません。

真一社長

結局、GDP が2%減ると、うちの売上はどうなるんだ。

桐生中小企業診断士

直結はしません。ただ、A 社が機械の注文を減らせば、巡り巡って影響が出ます。

ユイ総務経理

GDP は、うちの付加価値が国全体に溶け込んだ数字なんですね。

試験ではこう出る

頻出度は A(編集上の目安)。「GDP と三面等価」は、公式シラバスでは「国民経済計算の概念」に含まれる論点を、出題傾向から独立させたものです。経済学は数式とグラフが多い科目で、過去に弾力化(+4 点)が 2 回あります。

出題の型は 3 つです。

  • 計算問題: GDP、海外からの純所得、固定資本減耗、間接税、補助金が与えられ、NI や GNI を求める
  • 語句・正誤問題: 帰属家賃、中古品、土地・株式の売買益、家事労働が GDP に含まれるかを判別する
  • 三面等価の正誤: 三面等価が事前でなく事後的な関係である点、支出面の構成を問う

ひっかけの典型は 4 つです。

  • 控除の順番を取り違える。GNI から引くのは固定資本減耗と「間接税−補助金」の両方
  • 補助金を引いてしまう。引くのは間接税から補助金を引いた差
  • 国内と国民を取り違える。GDP は場所、GNI は居住者
  • 輸入 M を加えてしまう。支出面では輸入を引く

支出面の式 Y=C+I+G+(X−M)Y = C + I + G + (X - M) は、次の章の 45 度線分析へそのままつながります。形ごと覚えておきましょう。

確認クイズ

確認クイズ

Q.次のうち、国内総生産(GDP)に計上されるものはどれか。

確認クイズ

Q.ある国の GDP が 500 兆円、海外からの純所得が 10 兆円、固定資本減耗が 100 兆円、間接税が 50 兆円、補助金が 10 兆円であるとき、国民所得(NI)はいくらか。

確認クイズ

Q.ミナト金属の売上高が 620 百万円、外部購入(中間投入)が 308 百万円、固定資本減耗が 45 百万円であるとき、固定資本減耗を控除した純付加価値はいくらか。

確認クイズ

Q.三面等価の原則に関する記述として、最も適切なものはどれか。

確認クイズ

Q.日本企業が海外子会社から受け取る配当が増えたとき、GDP と GNI の変化として最も適切なものはどれか。

この記事のまとめ

  • GDP は、国内で一定期間に新たに生まれた付加価値の合計(中間投入は引く)
  • 生産・分配・支出のどこから測っても等しい。事後的な関係で、在庫の増減も含む
  • 支出面は Y = C + I + G + (X − M)。輸入は引き、分配面は 4 要素の合計
  • GDP + 海外からの純所得 = GNI。さらに固定資本減耗と間接税−補助金を引くと NI
  • 帰属家賃は含み、土地・株式の値上がり益や家事労働は含まない

翌週、決算書の売上は前年比 3% 増。しかしユイは、仕入と人件費の欄に目を留めて手を止めた。

この節で学んだシラバス項目
  • マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方国民経済計算の概念
  • マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方GDPと三面等価
  • マクロ経済学 / 経済指標の見方や読み方国民所得統計